多村建具製作所

田鶴浜建具を守るために、新しい風を取り入れブランド化へ

多村 正則さん[代表]


品は変わっても技は活かしたい

300年の伝統を持つ田鶴浜建具は、細かい組子を組み合わせる職人技が高い評価を受け、能登の伝統産業の一つとして認知されてきました。今では昔話になりますが、家に「田鶴浜の建具」が入っているから見てくれと自慢する家長もよくいたと聞いています。
昭和33年に父が創業し、当時は従業員10名、それぞれに技を競いながら活気もありました。しかし、時代の流れとともに新築されるマイホームの大半は見栄えより機能を重要視するようになり、値段が張る建具の需要は年々減少し、職人の高齢化に伴って後継者問題にも繋がっています。
17年前に創業の父を亡くし、それから私一人で事業を続けています。父からは技術を教えてもらう事もなく、見よう見まねで今日までやってきました。今から思えば父もそうであったのだろうと感じつつ、職人として建具の魅力を現代にも受け入れてもらいたい、建具の町田鶴浜に職人がいなくなってはだめだと感じながら、生き残りをかけ、私なりにチャレンジする毎日です。
昔は、こだわりの建具、こだわりの書院などの注文があり、その材料には神代杉や神代欅(けやき)を使って仕上げる醍醐味がありました。今では職人技は贅沢品とも言われるようになり、日常生活の一部として使われるテーブルや装飾品のイヤリング、ピアスなどの小物、そしてUSBメモリーまでも手掛けなければ受け入れられない時代となりましたが、品は変わっても技術はしっかりと活かし、思うところは昔の指物師のようになっているのも確かです。

チャレンジとオリジナルにこだわる

日々試行錯誤を重ねていますが、今私が自慢でき、こだわっているのは「曲線」です。今まで直線でしかなかった品物を曲線にすることで斬新さが受けるのではないか、和が洋にも感じられるのではないか、癒しにも繋がれば受け入れられるのではないかと考えました。機械では到底できず、すべて鉋(かんな)で仕上げる手間のかかる作業ですが、数々の失敗を重ねながらも私自身の技術は向上していったと自負しています。曲線の障子戸の注文を受け、納めた時は非常に嬉しかったことを今でも忘れられません。
我々職人は、技術の評価もさることながら、お客様の希望、要望に沿えるオリジナルを提供できてこそ、技術も評価されると考えます。そしてお客様の目線に立ち、ホコリが着きにくい工夫や掃除がしやすい工夫など、使ってみてその良さを感じてもらい、目に見えないところでもちゃんとした仕事をしていれば、感謝の言葉に変わり、私のやりがいにも繋がります。これからも、伝統産業を残していくためにも創意工夫しながらチャレンジして行こうと思います。
そんな思いの私に、のと鉄道から「観光列車・のと里山里海号」に輪島塗の沈金パネルを展示する衝立11枚の注文が入り、能登の伝統産業の共演に力が入り、半分以上は私に任せてもらいました。これからもいろんな仕事に携わるように自らが動き、時には営業マンとしても動き、同業者の方々と力を合せて田鶴浜建具を守っていきたいと思います。

多村建具製作所

■ 住所/〒929-2121 石川県七尾市田鶴浜町ハ117-1
■ TEL/0767-68-3742
■ 代表者/多村 正則
■ 創業/昭和33(1958)年
■ 業務内容/木製建具、木工小物製造

※業務内容や商品等はねっとわーく発行時から変更されている可能性があります